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【第12回】電気信号とその天敵 ― データはどうやって伝わり、何に邪魔されるのか

結論

コンピューターネットワークでは、データは電気信号としてケーブルの中を旅しています。しかしその旅には障害が待ち受けています。距離で信号が弱まる**「減衰(げんすい)」、外からのノイズが信号を乱す「干渉(かんしょう)」、そして複数の信号がぶつかり合う「衝突(しょうとつ)」**です。今回はこの3つの障害が「何者なのか」を知ることをゴールにします。


はじめに

前回のおさらい

前回までのシリーズでは、複数のコンピューターがケーブルを「共有」するときに起こる問題と、それを解決する技術を学びました。

  • CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access / Collision Detection):送信前にケーブルの状態を確認し、衝突が起きたら検出してやり直すしくみ
  • スイッチングハブ:接続された機器をかしこく管理し、必要な相手にだけデータを届ける装置
  • スター型配線:中心に1台のハブを置き、そこから各コンピューターを個別につなぐ配線方式

これらはすべて「ケーブルを効率よく、正確に使うための工夫」でした。

今回のテーマ

ところで、そもそもデータはケーブルの中をどんな形で旅しているのか、気になりませんか?

スイッチングハブが「正しい相手に届ける」しくみはわかった。でも、その「届ける」という行為の中身はまだ見ていません。今回はその根本に立ち返り、電気信号とは何か、そして電気信号の前に立ちはだかる3つの障害を紹介します。


電気信号

データの正体は「0と1」

私たちがパソコンで送るメッセージも、画像も、動画も、コンピューターの中ではすべて0と1の組み合わせ(ビット)で表されています。そしてその0と1を、ケーブルを通じて相手に届けるために使われるのが電気信号です。

電気信号とは、電圧(でんあつ)の高い・低いで情報を表したものです。

電圧の状態 意味
電圧が高い(例:+5V) 「1」
電圧が低い(例:0V) 「0」

これをとても速く切り替えながら送ることで、「01001000…」というデータをケーブルの向こう側に届けています。

モールス信号で考えてみる

電気信号のイメージをつかむのに、モールス信号がとても参考になります。

モールス信号では、点(・)と線(―)の組み合わせで文字を表します。たとえば「SOS」であれば「・・・ ――― ・・・」です。コンピューターが使う電気信号も本質的には同じで、「電圧が高い・低い」という2種類のパターンを組み合わせて、データを表現しています。

コンピューターが違うのはそのスピードです。1秒間に何百万回・何億回もの切り替えを行う、超高速モールス信号の使い手だと思ってください。

「何を意味するか」はあらかじめ決めた約束事にのっとる

ここで大切なことがあります。モールス信号が機能するのは、送る側と受け取る側が、あらかじめ同じ「対応表」を持っているからです。「・・・ ――― ・・・」がSOSを意味すると知らなければ、点と線の羅列にしか見えません。

電気信号も同じです。「この並びの0と1が、この文字(データ)を意味する」という約束事を、送受信の前に両者で共有しておく必要があります。

このような「通信のための取り決め」のことを、**プロトコル(Protocol)**と呼びます。プロトコルとは「議定書・規約」という意味の英単語で、ネットワークの世界では「通信の約束事・ルール」を指します。プロトコルについては今後の回でじっくり取り上げますが、「電気信号だけでは不十分で、ルールがセットで必要なんだ」ということを、まず頭の片隅に置いておいてください。


電気信号でのやり取りの障害

電気信号は一見シンプルに見えますが、現実の世界には信号を弱めたり乱したりする「障害」が存在します。代表的なものが以下の3つです。それぞれ何者なのかをまず知っておきましょう。対処法については次回以降の記事でじっくり掘り下げます。


減衰(げんすい)― 信号は距離で弱くなる

電気信号はケーブルを進むにつれて、少しずつエネルギーが失われ、信号が弱まっていきます。これを**減衰(Attenuation・アテニュエーション)**と呼びます。

イメージ:遠くにいる友達への呼びかけ 近くにいる友達には小声でも伝わりますが、遠くなるほど声は届きにくくなります。電気信号も同じで、ケーブルが長くなればなるほど信号は途中でエネルギーを消耗し、届く頃には「小さな声」になってしまいます。

信号が弱くなりすぎると、受け取った側が「これは0?それとも1?」と正確に判断できなくなります。データの読み間違いが起きて、通信エラーになってしまうのです。


干渉(かんしょう)― 外からのノイズが信号を乱す

ケーブルの周囲には、電子レンジや蛍光灯、ほかのケーブルなど、電磁波(でんじは)を発するものがたくさんあります。それらが出す電磁波が、ケーブルの中を流れる電気信号に入り込み、信号を乱してしまいます。これを**干渉(Interference・インターフェアランス)またはノイズ(Noise)**と呼びます。

イメージ:にぎやかな部屋での会話 静かな部屋なら小声でも相手に届きますが、周りでみんなが話し出すと、声が雑音にかき消されてしまいます。電気信号における「雑音」が干渉です。本来「0」という信号を送ったはずなのに、ノイズが重なって「1」に見えてしまうようなことが起こります。


衝突(しょうとつ)― 信号どうしがぶつかる

同じケーブルを複数のコンピューターが共有しているとき、2台以上が同時にデータを送ると、電気信号どうしがぶつかり合ってしまいます。これが**衝突(Collision・コリジョン)**です。

イメージ:一本道での正面衝突 一本の細い路地を想像してください。右からも左からも同時に車が突っ込んできたら、道の真ん中でぶつかってしまいます。電気信号も同時に流れると互いに混ざり合い、どちらの信号も読めないぐちゃぐちゃな状態になってしまいます。

実はこの衝突こそ、前回まで学んできたCSMA/CDやスイッチングハブが解決しようとした問題そのものです。「なぜあの技術が必要だったのか」が、衝突という障害を知るとすっきり腑に落ちますね。


まとめ

今回はネットワークの「土台」とも言える電気信号と、その障害を紹介しました。

  • データは**電気信号(電圧の高低)**としてケーブルを伝わる
  • 「信号の並びが何を意味するか」は、送受信の前に決めた**プロトコル(約束事)**にのっとる
  • 電気信号には3つの障害がある
    • 減衰(Attenuation):距離とともに信号が弱まる
    • 干渉(Interference):外からのノイズで信号が乱れる
    • 衝突(Collision):複数の信号がぶつかって混ざり合う

それぞれの障害にどう立ち向かうのか、次回以降の記事でひとつずつじっくり解説していきます。お楽しみに!