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【第11回】半二重・全二重・衝突ドメイン ― スイッチングハブでなぜ通信が速くなるのかをやさしく解説

結論

データ通信には「一方向ずつしか送れない半二重」と「同時に双方向で送れる全二重」があります。バス型ネットワークやリピータハブでは衝突が起きるため半二重しか使えませんでしたが、スイッチングハブ衝突ドメイン(衝突が起きる範囲)をポートごとに分けることで、全二重を実現しています。


はじめに

前回までのおさらい

これまでの連載で、ケーブル共有方式(バス型)の3つの弱点と、それぞれの解決策を学んできました。

  • 弱点①「データが衝突する」 → CSMA/CD で解決
  • 弱点②「全員にデータが届く」 → スイッチングハブ+MACアドレス で解決
  • 弱点③「障害で全体ダウンする」 → スター型配線 で解決

今回のテーマ

「スイッチングハブにしたら、なぜもっと速くなるのか?」

実は、スイッチングハブの恩恵はデータを宛先だけに届けることだけではありません。通信の方向の使い方そのものが変わるという、もう一段深い話があります。その答えが、半二重・全二重・衝突ドメインという3つのキーワードです。


本題

まず「二重」って何? ― Duplex の意味から

「半二重」「全二重」という言葉、なんだか難しそうですね。まず英語の元の言葉から分解してみましょう。

両方に共通しているのが Duplex(デュープレックス) です。

  • Du-(デュー):「2つの・双方向の」という意味の接頭語です。「デュエット(2人の歌)」「デュオ(2人組)」と同じ語源です。
  • -plex(プレックス):「〜方向に」という意味です。

つまり Duplex とは「双方向(2方向)の通信」を意味します。そこに「半分」と「全部」がつくわけです。


半二重(Half-Duplex)とは

  • Half(ハーフ):「半分」。「ハーフサイズ」「ハーフタイム」と同じ使い方です。
  • Duplex(デュープレックス):双方向の通信(上で説明しましたね)。

半二重(Half-Duplex) とは、「一度に1方向にしか通信できない」方式です。

一番わかりやすいたとえは**トランシーバー(無線機)**です。

登山中に無線機で話すとき、「山頂より、こちら麓。聞こえますか? どうぞ。」と言って、送信ボタンを離します。相手が話し終わったら「どうぞ」と言って、こちらが話す番になります。

送るときは受信できない。受信するときは送れない。必ず交互にしか使えないのが半二重です。

バス型ネットワークは、まさにこの状態でした。1本のケーブルを全員で共有しているため、誰かが送っている間は他の全員が待たなければなりません。


全二重(Full-Duplex)とは

  • Full(フル):「全部・完全」。「フルマラソン(全長)」「フルタイム(全時間)」と同じです。
  • Duplex(デュープレックス):双方向の通信。

全二重(Full-Duplex) とは、「同時に双方向で通信できる」方式です。

こちらのたとえは普通の電話です。

電話で話すとき、自分が話しながら相手の相槌も聞こえますよね。「そうなんですよ」と言いながら、相手の「へ〜!」という声も同時に届く。

送りながら受信もできる。これが全二重です。トランシーバーと違って「どうぞ」は必要ありません。

現代のスイッチングハブを使ったネットワークでは、この全二重が当たり前になっています。


なぜバス型は全二重にできなかったのか

「最初から全二重にすればよかったのでは?」と思いませんか?

それができなかった理由が、衝突です。

バス型では1本のケーブルを全員で共有しています。もし全二重で、みんなが好き勝手に送受信を同時に行ったら、電気信号はひっきりなしにぶつかりあってしまいます。

「全員が同じ道路を、好きな方向に、同時に走る」状態です。事故だらけになるのは目に見えています。

だから「一度に1方向ずつ」という半二重のルールで、なんとか秩序を保つしかなかったのです。


「衝突ドメイン」とは何か

ここで新しいキーワード、衝突ドメイン が登場します。

  • Collision(コリジョン):「衝突」。CSMA/CDの回で登場しましたね。
  • Domain(ドメイン):「領域・範囲・エリア」という意味です。「ウェブサイトのドメイン」でもおなじみですが、ここでは「範囲・エリア」という意味で使われています。

つまり 衝突ドメイン(Collision Domain) とは、「データの衝突が起きる可能性がある範囲」のことです。


バス型は「衝突ドメインが1つだけ」

バス型ネットワークでは、全員が1本のケーブルにつながっています。

この場合、ネットワーク全体がたった1つの衝突ドメインです。

[PC-A]──[PC-B]──[PC-C]──[PC-D]
|_________________________________|
       衝突ドメイン(全体が1つ)

PC-AとPC-Dが同時に送れば、ケーブルのどこかでぶつかります。PC-B・PC-Cも同じ範囲にいるので影響を受けます。全員が同じ「衝突のリスク」を共有しているのです。

コンピュータの台数が増えるほど衝突が増え、待ち時間が長くなり、ネットワーク全体が遅くなります


ちょっと待って!「ハブ」はどうなの?

「スイッチングハブじゃなくて、ただのハブを使った場合はどうなるの?」と思った方、鋭いです!

「ハブ」には2種類あります。

  • リピータハブ(単に「ハブ」と呼ばれることも多い)
  • スイッチングハブ(「スイッチ」とも呼ばれる)

見た目はよく似ていますが、中身はまったく違います。

リピータハブ は、届いた信号を「とにかく全ポートに流すだけ」の機器です。MACアドレスも見ませんし、宛先も考えません。

  • Repeater(リピーター):「繰り返す・中継する」という意味です。スポーツの「リピート」と同じ語源で、「そのまま繰り返して伝える」というイメージです。

たとえるなら**拡声器(メガホン)**です。話した内容を、方向も相手も関係なく周囲全員に聞こえるよう流すだけ。

このしくみでは、衝突ドメインはどうなるでしょう?

衝突ドメイン

バス型と同じく、全体が1つの衝突ドメインのままです。

ハブにつながるPCが増えるほど衝突は増え、半二重のままで、CSMA/CDも引き続き必要です。見た目はスター型の配線になっていても、衝突ドメインの観点ではバス型と変わらないのです。


スイッチングハブが衝突ドメインを「切り分ける」

スイッチングハブに変えると、何が変わるのでしょう?

スイッチングハブの各ポートは、それぞれ独立した衝突ドメインになります。

[PC-A]─┐
        │
[PC-B]─[スイッチングハブ]─[PC-C]
        │
       [PC-D]

↓ 衝突ドメインは…

[PC-A]だけ | [PC-B]だけ | [PC-C]だけ | [PC-D]だけ

PC-AとスイッチングハブのポートAは1対1でつながっています。そのケーブルを使うのはPC-Aだけです。PC-Aが送信するタイミングで、他のPCが割り込んでくることはありません。

衝突が起きる可能性がゼロになれば、「一度に1方向ずつ」というルールは不要になります。つまり、全二重が使えるようになるのです。


3つを並べて比べてみよう

比較項目 バス型 リピータハブ スイッチングハブ
衝突ドメイン 全体で1つ 全体で1つ ポートごとに独立
通信方式 半二重 半二重 全二重
CSMA/CD 必要 必要 不要
データの届け方 全員に届く 全員に届く 宛先だけに届く
PC台数が増えたとき 遅くなる 遅くなる 影響なし

リピータハブはバス型の問題をほとんど解決できていません。スイッチングハブにして初めて、衝突ドメインが分かれ、全二重が使えるようになります。

スイッチングハブが「宛先だけに届ける」に加えて「衝突ドメインを分けて全二重にする」という2つの役割を担っていたのです。これが、スイッチングハブにすると通信が速くなる本当の理由です。


まとめ

  • 半二重(Half-Duplex):一度に1方向しか通信できない(トランシーバーのイメージ)
  • 全二重(Full-Duplex):同時に双方向で通信できる(電話のイメージ)
  • バス型とリピータハブは衝突ドメインが全体で1つ → 半二重・CSMA/CDが必要
  • リピータハブは信号を全ポートにそのまま流すだけで、衝突ドメインはバス型と変わらない
  • スイッチングハブはポートごとに衝突ドメインを独立させる → 衝突がなくなり全二重が使えるようになる

次回は、身近な疑問「LANケーブルって種類があるの?どれを選べばいいの?」をテーマに、ケーブルの規格と選び方をわかりやすく解説します!