【第10回】イエローケーブルから現代ネットワークへ ― バス型の問題点と解決策をまるごとふり返る

結論

1本の黄色いケーブルをみんなで共有する「バス型ネットワーク」には、①データが衝突する・②関係ないPCにもデータが届く・③1か所の障害で全体がダウンするという3つの弱点がありました。それぞれを CSMA/CD・スイッチングハブ・スター型配線 で解決した結果、現代の安定したネットワークが生まれました。


はじめに

第6回〜第9回のおさらい

第6回から4回にわたって、「ケーブル共有方式(バス型)の弱点と解決策」を学んできました。

テーマ
第6回 バス型の3つの弱点を紹介
第7回 弱点①「衝突」→ CSMA/CDで解決
第8回 弱点②「全員に届く」→ スイッチングハブ+MACアドレスで解決
第9回 弱点③「全体ダウン」→ スター型配線で解決

今回はこれらをひとつの「物語」としてまとめます。それぞれの回を読んでいなくても、この記事だけでざっくりと流れがつかめるように書きました。

今回のテーマ

「なぜ今のネットワークはこのかたちになったのか?」

その答えが、このまとめ記事に詰まっています。


本題:イエローケーブルから現代ネットワークへの旅

まず「イエローケーブル」とは?

1980年代のオフィスのネットワークといえば、太くて黄色い同軸ケーブルが壁や天井を這いまわる光景が一般的でした。

このケーブルは見た目そのままに「イエローケーブル」と呼ばれ、当時のイーサネットの主役でした。

構造はシンプルです。1本の長いケーブルをオフィスに引き回して、そこにコンピュータを次々とつなげていく。まるでタコ足配線の大きい版のようなイメージです。

[PC-A]───[PC-B]───[PC-C]───[PC-D]
         ↑
    1本のケーブルをみんなで共有

コンピュータが増えるほど、ケーブルはどんどん延長されていきました。

シンプルで拡張しやすい、良さそうなしくみに思えます。しかし実際に使い始めると、3つの大きな問題が浮かび上がりました。


問題①:データがぶつかってしまう(衝突)

1本のケーブルを複数のコンピュータで共有するということは、同じ道路を全員が走るようなものです。

AさんのPCとBさんのPCが、ほぼ同時にデータを送ろうとしたらどうなるでしょう?

電気信号どうしがぶつかり、グチャグチャになって使えなくなります。これを「衝突(コリジョン)」と呼びます。コンピュータが増えるほど、衝突は頻繁に起き、通信はどんどん遅くなります。

解決策:CSMA/CD

送る前にケーブルを聞く」ルールです。

  • ケーブルが静かなら → 送ってOK
  • ケーブルがにぎやかなら → 待つ
  • 衝突してしまったら → いったん止めて、ランダムな時間だけ待ってからやり直す

このルールを CSMA/CD(シーエスエムエー・シーディー) と呼びます。単語の意味を思い出すと:

  • CS(Carrier Sense):信号を感じ取る = 送る前に聞く
  • MA(Multiple Access):複数でアクセス = みんなで共有
  • CD(Collision Detection):衝突を検知 = ぶつかったらすぐ気づく

問題②:関係ないPCにもデータが届いてしまう

バス型では、誰かがデータを送ると、電気信号はケーブル全体に広がります。

AさんがBさんへ送ったデータも、CさんやDさんのPCにまで届いてしまいます。CさんとDさんは「自分宛てじゃない」と判断して無視しますが、それでも一度すべてのPCが受信してしまうのは変わりません。

廊下で誰かに話しかけると、廊下にいる全員に聞こえてしまう状況です。

プライバシーの観点でも、効率の観点でも、好ましくありません。

解決策:スイッチングハブ + MACアドレス

スイッチングハブは、各コンピュータが持つ固有の番号「MACアドレス」を使って、データを宛先のPCだけに届けます。

MACアドレスとは「ネットワーク上でのコンピュータの住所」です。

  • MAC(Media Access Control):データの通り道を管理する
  • Address:住所

スイッチングハブはやりとりを重ねながら「AさんのPCはこのポート、BさんのPCはあのポート」というMACアドレステーブルを自動で作成します。これにより、BさんへのデータはBさんのポートにだけ届けられ、CさんやDさんには何も届きません。

廊下で叫ぶ代わりに、内線電話でピンポイントに呼び出す感覚です。


問題③:1か所の障害でネットワーク全体がダウンする

バス型のケーブルは1本につながっています。

このケーブルのどこか1か所でも断線や接触不良が起きると、信号がそこで遮断されて全員が通信できなくなります

たとえるなら、廊下の延長コードに全員の機器をつないでいる状態です。コードが1か所でも断線すれば、全部の機器が止まってしまいます。

コンピュータが増えれば増えるほど、ケーブルも長くなり、どこかで問題が起きるリスクも高まります。

解決策:スター型配線

スイッチングハブを中心に、各コンピュータを個別のケーブルでつなぐ方式に変えます。これをスター型(星型)と呼びます。

      [PC-A]
         |
[PC-C]──[スイッチングハブ]──[PC-B]
         |
      [PC-D]

BさんのPCとハブをつなぐケーブルが断線しても、それはBさんの1台だけの問題です。AさんもCさんもDさんも、そのまま通信を続けられます。

廊下の延長コードをやめて、各部屋のコンセントから個別に電源を引くイメージです。


3つの問題と解決策を並べて見てみよう

問題 原因 解決策 キーワード
①データが衝突する みんなが同じタイミングで送る 送る前に聞いて、ぶつかったらランダムに待つ CSMA/CD
②全員にデータが届く 電気信号がケーブル全体に広がる 宛先のPCだけに転送する スイッチングハブ / MACアドレス
③障害で全体ダウン 1本のケーブルに全員が依存している 各PCを個別ケーブルでハブにつなぐ スター型配線

バス型と現代のスター型、何が変わった?

これらの解決策はバラバラに存在するのではなく、現代のネットワークでは3つすべてが同時に実現されています

比較項目 バス型(イエローケーブル時代) スター型(現代)
ケーブルの構造 1本を全員で共有 各PCから個別にハブへ
衝突 頻繁に起きる ほぼ起きない(専用回線のため)
データの届き方 全PCに広がる 宛先のPCだけに届く
障害の影響範囲 全体がダウン 1台だけが切り離される
中心機器 なし(1本のケーブルのみ) スイッチングハブ

スイッチングハブを使ったスター型では、各PCが専用のケーブルでつながるため、そもそも衝突が起きにくく、CSMA/CDが活躍する場面もほぼなくなりました。

技術は問題を解決するために進化し、解決したことでさらに別の問題も消えていく。そのつながりがよくわかる例です。


まとめ

  • バス型(イエローケーブル) は、1本のケーブルをみんなで共有するシンプルな方式だったが、3つの弱点を抱えていた
  • 弱点①「衝突」 → CSMA/CD(送る前に聞いて、ぶつかったらランダムに待つ)
  • 弱点②「全員に届く」 → スイッチングハブ + MACアドレス(宛先だけに転送)
  • 弱点③「全体ダウン」 → スター型配線(個別ケーブルで障害を1台に限定)
  • 3つの解決策は現代のネットワークですべて同時に実現されており、これが今私たちが使っているLANの基本形

次回からは、同じ建物内のネットワークを超えて、インターネットへとつながるしくみを探っていきます。ルーターやIPアドレスといった新しいキーワードが登場します。お楽しみに!