この記事でわかること
- 広義のネットワーク:コンピューター同士をつなぐ仕組み全般のこと
- 狭義のネットワーク:自宅・学校・会社など、ひとまとまりの機器グループのこと
- レイヤー1では「セグメント」、レイヤー2では「ネットワーク」と呼ぶが、この連載ではどちらも同じひとかたまりを指す言葉として使う
- 「インターネット層」という名前には、ネットワーク同士をつなぐ役割がそのまま込められている
はじめに
前回までの記事では、TCP/IPモデルの ネットワークインターフェース層(レイヤー1) を学んできました。ケーブルや無線を使って機器を物理的につなぐ層でしたね。
今回からは、その一つ上の層である インターネット層(レイヤー2) に入っていきます。
ただ、その前にひとつ整理しておく必要があります。インターネット層の話をすると、「ネットワーク」という単語が何度も出てきます。実はこの言葉、2つの意味を持っています。ここを曖昧にしたまま進むと、「今どのネットワークの話をしているんだろう?」と混乱しやすくなります。
「ネットワーク」の2つの意味
広い意味(広義)のネットワーク
この連載ではこれまで、「ネットワーク」を次のように説明してきました。
コンピューター同士をつなぐ仕組み
この意味でいえば、自宅や学校の LAN(Local Area Network:Local「局所・限られた範囲」+ Area「エリア・範囲」+ Network「ネットワーク」=「限られた範囲のネットワーク」)も、世界規模の WAN(Wide Area Network:Wide「広範囲」+ Area「エリア・範囲」+ Network「ネットワーク」=「広範囲にわたるネットワーク」)も、すべて「ネットワーク」です。日常会話で「ネットワーク障害」「ネットワークに強い人」と言うときも、この広い意味が多いです。
狭い意味(狭義)のネットワーク
ネットワークインターフェース層の記事で「セグメント(segment:区切られた区画・断片 という意味)」という言葉が登場しました。スイッチでつながった機器のひとかたまりのことです。
【セグメント(レイヤー1での呼び方)】
PC-A ──┐
├── スイッチ
PC-B ──┘
このスイッチでつながったひとかたまり = セグメント
インターネット層では、このセグメントのことを 「ネットワーク」 と呼びます。指しているものは同じですが、層が変わると呼び名も変わります。
| 層 | 呼び方 |
|---|---|
| レイヤー1(ネットワークインターフェース層) | セグメント |
| レイヤー2(インターネット層) | ネットワーク |
身近な例に当てはめるとこうなります。
- 🏠 自宅のネットワーク:自宅のルーターにつながっているスマホ・PC・テレビなどのグループ
- 🏫 学校のネットワーク:校内のパソコン室や教員室にある機器のグループ
- 🏢 会社のネットワーク:オフィス内のパソコン・プリンター・サーバーのグループ
「ひとまとまりの範囲でまとまったコンピューターの集まり」──これが狭義のネットワークです。
なぜ同じものに別の呼び方があるのか
ネットワークの層ごとに見る視点が違うため、呼び名が変わります。ここでは市町村の比喩を使って、初心者にもわかりやすく説明します。
ネットワークインターフェース層 = 市の内側を見る視点
- イメージ:ある市の中で「どの番地にどんな建物があり、どの道でつながっているか」を見るイメージ。
ネットワークインターフェース層 は、市の内側を詳しく見る視点です。どの番地にどんな建物があり、どの道で直接つながっているかを気にするように、各機器とスイッチのケーブル(もしくは無線)でのつながりを考えます。このイメージでいくと、市内の「区画」、つまり「セグメント(segment:区画)」という言葉がぴったりくるのです。

ネットワーク層 = 市と市のつながりを見る視点
インターネット層 は、市と市のつながりを俯瞰する視点です。どの市からどの市へ物を運ぶか、どの経路を通すかを考えるように、市の内部構造は気にせず、拠点(市)から拠点(市)へとデータを転送していく。この視点では、拠点同士のつながりに注目するため、「ネットワーク」という言葉のニュアンスがぴったりくるわけです。

2つの視点を並べるとこうなります。
| 注目する範囲 | 使う言葉 | |
|---|---|---|
| ネットワークインターフェース層 | 市の内側(どの建物がどの道でつながっているか) | セグメント(区画) |
| ネットワーク層 | 市と市の間(どの拠点からどの拠点へ届けるか) | ネットワーク(拠点) |
言葉が変わっても指している実体は同じです。「ネットワーク」が広義でも狭義でも使われるのは、この層をまたいだ呼び名の違いから生まれた事情です。
※高度なネットワーク設計の場合、セグメントとネットワークが必ずしも一致しない場合もあります(実社会でいうと、飛び地的なものがあるイメージです)が、入門編としてはセグメント = ネットワークと考えていただいて問題ありません。
同じネットワーク内なら直接話せる
同じネットワーク(セグメント)内の機器同士は、スイッチを介してそのまま通信できます。ネットワークインターフェース層で学んだ話です。
🏠 自宅のネットワーク内
スマホ ──┐
├── スイッチ(ルーターに内蔵されていることが多い)
PC ────┘
スマホとPCは同じネットワーク内 → スイッチ経由でそのまま通信できる
別のネットワークへはどうやって届けるのか
自宅のPCからAmazonのサーバーにアクセスする場合を考えてみます。
自宅のPCとAmazonのサーバーは、それぞれ別のネットワークにいます。
🏠 自宅のネットワーク 🏢 Amazonのネットワーク
┌──────────────────┐ ┌─────────────────────┐
│ │ │ │
│ あなたのPC ─────┼──────────────┼──▶ Amazonのサーバー │
│ │ │ │
└──────────────────┘ └─────────────────────┘
↑ ↑
狭義のネットワーク① 狭義のネットワーク②
「別のネットワークへデータを届ける」──インターネット層の役割はまさにここです。
ルーターについて少しだけ
そして、実際に別のネットワークへデータを届ける機器が ルーター です。
英語の router は route(経路)に -er(〜するもの)が付いた語で、「経路を決めてデータを送る装置」という意味合いになります。
これまで何度も出てきた「スイッチングハブ(一般にはスイッチと呼ぶ)」は、別のネットワークへデータを届けることが出来ません。TCP/IPモデルでは、ネットワーク内とネットワーク外部でのデータのやり取りはそれぞれネットワークインターフェース層、ネットワーク層で厳密に分担されており、スイッチはネットワークインターフェース層に属する機器だからです。
| レイヤー名 | データのやりとり | 代表機器 |
|---|---|---|
| ネットワークインターフェース層 | ネットワーク内 | スイッチ |
| インターネット層 | ネットワーク間 | ルーター |
一方ルーターはインターネット層に属する機器であり、別ネットワークとのデータのやり取りをする機器です。ルーターは届いたデータの宛先を確認し、「これは自分のネットワーク宛てか?それとも別のネットワーク宛てか?」を判断して、別のネットワーク宛てであれは他のルーターに、自分のネットワーク宛てであればスイッチにデータを送ります。
(直接宛て先となっているパソコンにデータを送ることはしません。同じネットワーク内でのデータのやり取りはネットワークインターフェース層の役割だからです。)
では、どこからが「同じネットワーク内」で、どこからが「別のネットワーク」なのでしょうか。境界線はルーターの位置です。自宅のスマホ・PCは、すべて自宅のルーターの内側にあります──これが自宅のネットワーク。ルーターの外側は、すでに別のネットワークです。
自宅のPCからAmazonのサーバーにアクセスしようとすると、この境界をまたぐことになります。Amazonのサーバーは 別のネットワーク に属しているからです。 ルーターの詳しい動きは後続の記事で取り上げます。今は「ネットワークとネットワークの橋渡しをする機器がある」とだけ覚えておいてください。
「インターネット」という言葉に答えがある
インターネット層の「インターネット」という言葉を分解してみましょう。
- inter(インター):「〜の間に」「〜をまたいで」という意味の接頭語(例:international =「国と国の間の」→「国際的な」)
- net(ネット):ネットワークの略
internet(インターネット) とは、文字通り「ネットワークとネットワークの間をつなぐもの」という意味です。インターネット層(internet layer)という名前そのものが、この層の役割を端的に示しています。
スイッチが「同じネットワーク内の通信」を担うのに対して、ルーターは「ネットワーク同士をまたぐ通信」を担います。インターネット層とは、このルーターが活躍する世界の話をする層です。
なお、「インターネット層」の「インターネット」と、世界規模の通信網を指す「インターネット(英語では The Internet)」は同じ語源を持ちますが、別の話です。「インターネット層」はあくまで技術的な層の名称で、「ネットワーク同士をつなぐ仕組みを担う層」という役割を表しています。
まとめ
「ネットワーク」という言葉の混乱は、各層が同じものを異なる視点で眺めていることから生まれていました。レイヤー1はひとかたまりの内側の構造を見て「セグメント」と呼び、レイヤー2は複数のまとまりを外から俯瞰して「ネットワーク」と呼ぶ。どちらも同じひとかたまりを指しているのに、見ている角度が違うだけです。
この記事以降、「ネットワーク」という言葉が出てきたときは「自宅や会社のような、ひとまとまりの機器グループ」のことを指すと読んでください。次の記事では、そのネットワーク同士をつなぐ仕組みの核心である IPアドレス に入っていきます。