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バス型ネットワークとは?コンピューターネットワーク黎明期の接続形式をやさしく解説

バス型ネットワークとは、コンピューターネットワークの黎明期(1970〜80年代)に広く使われていた接続形式です。1本の太いケーブルを幹線として複数のコンピューターをつなぎ、「トランシーバー(ヴァンパイアタップ)」と呼ばれる装置でケーブルに直接針を刺して接続ポイントを作るという、当時ならではの工夫が用いられていました。

ケーブルを集約する機器(ハブ)はコストと技術の制約から実現が難しく、バス型ネットワークはその制約の中で生まれた現実的な解答でした。現代のネットワークがなぜハブやスイッチを中心とした構成になったのかは、バス型ネットワークの仕組みを知ることで明確に見えてきます。


はじめに

コンピューターネットワークとは「複数のコンピューターをつなぎ、データを行き来させる仕組み」です(こちらの記事で解説しています)。この定義に基づけば、ネットワークを成立させる最低台数は2台です。パソコン1台とプリンター1台をケーブルでつなぐだけでも、立派なネットワークといえます。

ただ、企業や大学でコンピューターが使われはじめた1970〜80年代、「3台以上をどうつなぐか」という問題が議論されるようになりました。台数が多くなった場合に対処するため、エンジニアたちが最初に出した答えが「バス型ネットワーク」でした。では、台数が増えると何が問題になるのでしょうか。まずケーブルの本数から見ていきましょう。


接続台数とケーブルの本数の問題

ネットワーク黎明期によく見られた「コンピューター同士を直接つなぐ」構成において、接続台数とケーブルの本数の関係を見てみます。

2台をつなぐ ― 最もシンプルなネットワーク

2台のコンピューターをケーブル1本で直結した図

コンピューターが2台なら、ケーブル1本で完結します。両端をそれぞれに差せば、データはそのケーブルを通って相手にまっすぐ届きます。台数が2台のうちは、シンプルで問題もありません。

3台以上をつなぐ ― 必要なケーブルが爆発的に増える

3台以上になると、全台数を直接つなぐために必要なケーブルの数はどうなるでしょうか。

5台を全結合すると10本のケーブルが必要になる図

接続するコンピューターの数が増えるにつれて、必要なケーブルの数が爆発的に増えていきます。「n台のコンピューターをすべて直接つなぐのに必要なケーブルの数」は n×(n−1)÷2 という式で求められます。3台なら3本(A-B・B-C・A-C)、4台なら6本、5台なら10本、10台では45本になります。台数が増えるほどケーブルの数は急増し、コストや管理の手間も膨大になります。

ケーブル共有のアイデアが生まれる

この「ケーブル数が爆発的に増加してしまう問題」に対処するために、当時のエンジニアたちが考え出したのが 「1本のケーブルをみんなで共有する」 というバス型ネットワークの発想でした。

なお、現代のようにケーブルを集約する機器を使用するという発想は当時は採用されませんでした。この理由については後述します。


バス型ネットワーク ― 1本の太いケーブルにコンピューターを並べる接続形式

バス型ネットワークは、1本の太いケーブルをテーブルや床、壁などに這わせて、そのケーブルにコンピューターを接続する形です。1本のケーブルを、接続しているコンピューターすべてで 「共有」 します。

1本のケーブルに複数のコンピューターが接続されたバス型ネットワークの構成図

1本のケーブルに沿ってコンピューターが並ぶ様子は、1本の道路沿いにバス停が並んでいる光景に重なります。これが「バス型(Bus Topology)」と呼ばれる由来です。

英単語 意味
bus バス
topology 接続の形態・配置の方法・並び方

バス型ネットワークにおけるコンピューターの接続方法

バス型ネットワークでは「1本の太いケーブルにコンピューターを接続する」と説明しました。では実際、当時はどのようにコンピューターを接続していたのでしょうか。

驚くかもしれませんが、「トランシーバー」という機器を使ってケーブルに穴をあけ、そこに金属針をねじ込むことで半ば強引に接続ポイントを作っていたのです。

イエローケーブルと「10BASE5」

バス型ネットワークで実際に使われたのが、「10BASE5(テン・ベース・ファイブ)」という規格のケーブルです。

語句 意味
10 転送速度10Mbps(1980年代当時は十分な速度)
BASE ベースバンド方式(1本のケーブルで1種類の信号だけを流す方式)
5 最大伝送距離が5(=500m)

直径約1センチ、黄色い被覆に包まれていたため 「イエローケーブル」 とも呼ばれます。太くて硬く、「廊下に這わせると邪魔」「曲げるのが一苦労」と言われるほどの存在感でした。

このケーブルの両端には必ず「ターミネーター(終端抵抗)」を取り付けます。信号はケーブルを電気の波として伝わりますが、末端まで到達すると壁に当たった音のように跳ね返ります(反射)。ターミネーターはその反射を吸収し、信号の乱れを防ぎます。取り付けないと電気信号がケーブル内で反射を繰り返し、ネットワークが停止してしまいます。

英単語 意味
terminator terminate(終わらせる・終端にする)

トランシーバー(ヴァンパイアタップ)

トランシーバーの底面には2本の鋭い金属針があります。これをケーブルに強く押し当ててネジで固定すると、針がケーブルを貫通します。1本はケーブル中心の信号線に届き、もう1本は外側の保護層(シールド)に接触します。イエローケーブルには2.5m間隔で黒い帯状のマーク(タップマーク)が印字されており、必ずこのマークの位置に接続することになっていました(信号の反射を防ぐため)。

英単語 意味
trans- 「送る」の意(transmit=送信する、から); 信号を送り出す機能
-ceiver 「受け取る」の意(receive=受信する、から); 信号を受け取る機能

この2本の金属針がケーブルに突き立てられる様子が、吸血鬼が牙を刺す姿に見えることから、 「ヴァンパイアタップ(vampire tap)」 という別名で広く知られています。

AUIケーブル(ドロップケーブル)

取り付けたトランシーバーとコンピューターの間には、「AUIケーブル(ドロップケーブル)」と呼ばれる別のケーブルを伸ばして接続します。最大50メートルまで使えたため、幹線のイエローケーブルを廊下や壁際に固定したまま、コンピューターをオフィスの好きな場所に置くことができました。

10BASE2 ― より手軽なバス型ケーブル

1985年ごろ登場した「10BASE2(テン・ベース・ツー)」は、10BASE5の「太さ・硬さ・接続の手間」を改善した規格です。細くて曲げやすい同軸ケーブル(直径約5mm)を使い、ヴァンパイアタップではなく BNCコネクタT型コネクタ でケーブルに差し込む方式を採用しました。「シンイーサネット(Thin Ethernet)」とも呼ばれ、小規模オフィスや教室への普及に貢献しました。

語句 意味
10 転送速度10Mbps
BASE ベースバンド方式
2 最大伝送距離が約200m(正確には185m。「2」は切り上げた値)

ただし、10BASE2もバス型の構造である点は変わらないため、後述する「衝突」や「断線によるネットワーク停止」といった問題はそのまま引き継いでいます。


バス型ネットワークの弱点

バス型ネットワークには、主に次の 3つの構造的な弱点 があります。

  • データが全員に届いてしまう(プライバシーと処理効率の問題)
  • 信号の「衝突」が頻繁に起こる(速度低下の問題)
  • 1か所の断線でネットワーク全体が止まる(障害耐性の問題)

これらはすべて、「1本のケーブルを全員で共有する」というバス型の構造そのものに起因しています。以下でそれぞれ解説します。

データが全員に届いてしまう

バス型ネットワークでは、誰かが送った電気信号はケーブル全体を走るため、つながっている全員のコンピューターに届きます。

コンピューターAがコンピューターCにデータを送ると、その信号はB・D・Eにも届きます。それぞれが受信したデータの宛先を確認し、自分宛てでなければ無視します。これは学校の全校放送に似ています。スピーカーからの声は全校生徒が聞きますが、呼ばれた生徒ひとりだけが反応します。

問題は、他者同士の通信を覗き見ることができる点です。AがCに対してメールを送ると、その信号はBにも届きます。Bは自分宛でない信号なので基本的に無視しますが、特殊なツール(「パケットスニファ」と呼ばれる解析ソフト)を使えば、その内容を読み取ることができてしまいます。

また、100台のコンピューターが接続されているネットワークでは、単純計算で99%は自分宛てでない信号です。宛先を判断する処理もコンピューターに負荷をかけるため、現代の視点から見ると効率的とは言えません。

信号の「衝突」が頻繁に起こる

1本のケーブルを共有しているため、複数台のコンピューターが同時に信号を送ると、信号同士がぶつかり合って読み取れない状態になります。これを 「衝突(コリジョン)」 と言います。

衝突が起きると、両方が送信を止め、少し待ってから再送します。この「送信前にケーブルの状態を確認し、衝突したら待つ」という仕組みには正式な名前があります。 CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access / Collision Detection:搬送波感知多重アクセス/衝突検出) と呼ばれる通信制御方式です。

ただし、接続台数が多いと、待ってから再送してもまた衝突することがあります。そのため、接続台数が増えると通信速度が著しく低下するという弱点がありました。

1か所の断線でネットワーク全体が止まる

1本のケーブルを全員で共有しているため、どこか1か所でも断線したり、ターミネーターが外れたりするだけでネットワーク全体が機能しなくなります。オフィスの清掃中に誰かが誤ってターミネーターに触れてしまうだけで、フロア全体のネットワークが止まることもありました。原因を特定するにも、長いケーブルのどこに問題があるかを探し回る必要があり、復旧に時間がかかりました。

1本の大通りが崩れると、その道を使う全員が立ち往生します。バス型ネットワークはまさにその構造でした。


現代ネットワーク ― バス型からスター型へ

上記3つの弱点は、現代の主流であるスター型ネットワーク(ハブやスイッチを中心にケーブルを集める構成)では次のように解消されています。

① データが宛先にだけ届く(盗聴リスクの低減)

現代のスイッチングハブ(スイッチ)は、各コンピューターのMACアドレス(各機器に固有に割り当てられた番号)を管理しています。AからCへデータを送る際、スイッチはCのポートにだけデータを転送します。BやDにはデータが届かないため、盗聴が格段に難しくなりました。

② 衝突が起きない(CSMA/CD不要)

スター型では各コンピューターが専用のケーブルでスイッチに接続されており、送受信を同時に行える「全二重通信(Full Duplex)」が可能です。ケーブルを共有しないため衝突そのものが発生せず、CSMA/CDも不要になりました。

③ 1か所の断線が全体に影響しない(障害耐性の向上)

スター型では各コンピューターが独立したケーブルでスイッチに接続されています。1台のコンピューターやそのケーブルに問題が起きても、他のコンピューターの通信にはまったく影響しません。


バス型ネットワークに関するよくある疑問

バス型ネットワークを学ぶと、「なぜ最初からハブを使わなかったのか」という疑問を持つ方が多いです。当時の技術的・経済的な背景を見てみましょう。

なぜ最初から集約型機器(ハブ)を使わなかったのか

現代のハブやスイッチは、すべてのケーブルを1台の機器に集め、届いたデータを適切なポートへ送り出します。ネットワーク黎明期にこの形が選ばれなかった理由は2つあります。

① 集約型機器を作るコストが高すぎた

ハブのような集約型機器は、各ポートで届いたデータを電気的に処理して送り出す「能動的な装置(アクティブデバイス)」です。ポートの数だけ回路が必要で、1980年代の電子部品の価格では1台あたりのコストが非常に高くなりました。ハブは「全乗客の行き先を把握して適切な車両に誘導する精密な自動改札システム」のようなもの、一方バス型のケーブルは「ただの道路」でほぼコストゼロで引けます。精密な自動改札は、当時の技術では非常に高価でした。

② 当時のイーサネットはバス型の共有構造を前提に設計されていた

先ほど説明したCSMA/CDというルールは、バス型ネットワークの共有ケーブルを前提に組み込まれた仕組みです。1本の道を全員で使い合うことが、当時のイーサネットの根本的な設計思想でした。

1990年代に入ると回路の製造コストが急激に下がり、ハブが現実的な価格で製品化されはじめます。スター型が広まり、バス型ネットワークは歴史の中へと去っていきました。


まとめ

バス型ネットワークは、1本のケーブルを全コンピューターで共有してつなぐ、ネットワーク黎明期の接続形式です。黄色い太い同軸ケーブル(10BASE5)を幹線に、ヴァンパイアタップ(トランシーバー)でケーブルに直接穴をあけて接続する独特の仕組みは、当時の技術とコストの制約が生んだ工夫でした。1990年代以降、ハブの普及とともにスター型へと置き換えられ、現在は歴史的な接続形式として語られています。

バス型 vs スター型 比較表

比較項目 バス型ネットワーク スター型ネットワーク
接続形式 1本のケーブルを全員で共有 各コンピューターが専用ケーブルでスイッチに接続
データの届き方 全員に届く(ブロードキャスト) 宛先のみに届く(スイッチが制御)
衝突 発生しやすい(CSMA/CDで対処) 発生しない(全二重通信)
断線の影響 ネットワーク全体が停止 切断した1台のみに影響
セキュリティ 盗聴リスクあり スイッチが宛先を管理し低リスク
普及時期 1970〜90年代 1990年代〜現在

用語表

用語 意味
バス型(Bus Topology) bus=共有の信号路 / topology=接続形態; バス停が並ぶ大通りのように1本のケーブルに複数のコンピューターが接続される形
トランシーバー(Transceiver) transmit(送信する)+ receive(受信する)の合成語; データの送受信を担う装置。バス型ではケーブルに針を刺して接続する
ヴァンパイアタップ(Vampire Tap) vampire(吸血鬼)+ tap(穿刺する・取り出す); 吸血鬼の牙のようにケーブルに針を刺して信号を引き出す装置(トランシーバー)の別称
10BASE5 10Mbps / baseband / 500m; バス型で使われた黄色い太い同軸ケーブルの規格
10BASE2 10Mbps / baseband / 約200m; バス型で使われた細い同軸ケーブルの規格(シンイーサネット)
ターミネーター(Terminator) terminate(終端にする); ケーブル末端で信号の反射を吸収する終端抵抗
AUIケーブル(AUI Cable) Attachment Unit Interface; トランシーバーとコンピューターをつなぐドロップケーブル(最大50m)
CSMA/CD Carrier Sense Multiple Access / Collision Detection(搬送波感知多重アクセス/衝突検出); 衝突を検知して送信を再試行する通信制御方式