ハブとは、複数のコンピューターを中央に集約してつなぐ集線装置です。バス型ネットワークでは1本のケーブルを全員で共有していたため、どこか1か所が断線するだけでネットワーク全体が止まりました。ハブは各コンピューターに専用のケーブルを割り当てることでその問題を解決しました。1本のケーブルが切れても影響を受けるのはそのコンピューター1台だけで済みます。ただし、届いた信号をすべてのポートへ転送するというハブの動作はバス型と同じで、信号の盗聴リスクや衝突の問題は残りました。これらを解決したのは後継の スイッチングハブ です。
はじめに
バス型ネットワークの記事では、バス型の3つの弱点として「データが全員に届く」「信号の衝突が起きる」「1か所の断線でネットワーク全体が止まる」を紹介しました。このうち3番目の断線問題を解決した装置がハブです。1990年代に急速に普及し、バス型ネットワークをほぼ完全に置き換えました。
バス型の断線問題 ― おさらい
バス型ネットワークでは、1本のケーブルを幹線として床や壁に這わせ、複数のコンピューターをそのケーブルに並列に接続していました。全員が同じ1本のケーブルを共有しているため、どこか1か所でも断線すれば電気信号の通路が遮断されてネットワーク全体が機能しなくなります。
図:バス型:1か所の断線でネットワーク全体が停止
「掃除中に誰かがターミネーターに足を引っかけた」だけでフロア全体のネットワークが止まった、という話が当時のオフィスでは珍しくありませんでした。ターミネーターの脱落であればケーブルの両端を確認すれば原因はわかりますが、ケーブルのどこかで断線が起きた場合は話が変わります。内部の銅線が切れているだけでは外見から判断できないことが多く、長いケーブルのどこに問題があるのかを一区間ずつ調べ回らなければなりませんでした。
問題の根本は「全員が1本のケーブルを共有している」という構造にあります。共有しているものが壊れれば、共有しているすべての人が影響を受けるのは自然なことです。
ハブの登場 ― 集線装置と10BASE-T
断線問題を解決したのがハブ(Hub)です。ハブは机の上に置ける箱型の機器で、側面にケーブルを差し込む口(ポート)が複数並んでいます。各コンピューターがそれぞれ専用のケーブルでこのポートに接続されます。1本のケーブルを全員で共有していたバス型と違い、ハブを中心に各コンピューターが独立したケーブルでつながる形です。この並び方を「スター型トポロジー」と言います(この後詳しく解説します)。
ハブの普及は、1990年にIEEEが「IEEE 802.3i」として標準化した「10BASE-T」という規格と深く結びついています。
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 10 | 転送速度10Mbps |
| BASE | ベースバンド方式 |
| T | Twisted pair(ツイストペアケーブル)の略 |
10BASE-Tでは、それまでの太くて硬いイエローケーブル(10BASE5)の代わりに「ツイストペアケーブル(UTPケーブル)」を採用しました。パソコンとルーターをつなぐLANケーブルと同じ種類で、細くて柔軟性があります。2本の電線をらせん状にねじり合わせることで電気的なノイズを打ち消し合う構造を持ちます。
| 英単語 | 意味 |
|---|---|
| twisted | ねじれた・よじれた; 2本の電線をらせん状に巻き合わせた構造 |
| pair | 対(つい); 2本1組の電線 |
「RJ-45」と呼ばれる台形型のコネクタで接続し、ケーブル1本あたりの最大距離は100mです。バス型のイエローケーブル(最大500m)より短くなりましたが、1台ずつ専用ケーブルで接続するスター型では十分な長さです。
バス型の記事では「なぜ最初からハブを使わなかったのか」として、当時の電子部品のコストが高すぎたことを挙げました。1990年代に入ると製造コストが急激に下がり、ハブが現実的な価格で手に入るようになります。10BASE-Tの標準化とコスト低下が重なり、スター型ネットワークは一気に広まりました。
スター型トポロジー ― ハブを中心にした接続形式
ハブを使ったネットワークは「スター型(Star Topology)」と呼ばれます。中央のハブから各コンピューターへのケーブルが放射状に伸び、その形が星(スター)に見えることが名前の由来です。
図:スター型トポロジー:ハブを中心に放射状にケーブルが伸びる
「ハブ(hub)」という英単語は、もともと自転車や車の車輪の中心部品を指します。中央の円形の部品(ハブ)からスポークと呼ばれる細い棒が放射状に伸びて外周のリムにつながる構造です。ネットワークのハブも同じで、中央のハブから各コンピューターへのケーブルが放射状に伸びます。
| 英単語 | 意味 |
|---|---|
| hub | 車輪の中心部; 中央から周囲へ接続が広がる拠点 |
| star | 星; 中央から放射状に伸びる形が星に見える |
| topology | 接続の形態・配置の方法・並び方 |
バス型との根本的な違いは「各コンピューターが専用のケーブルでハブに接続される」という点です。全員が1本のケーブルを共有していたバス型から、1対1の専用ケーブルで中央ハブとつながる形への転換です。
断線問題の解決 ― 専用ケーブルが生んだ障害耐性
専用ケーブルを持つスター型では、1本が断線しても他のケーブルは独立して生きています。
図:スター型:断線の影響は1台のみ・他は正常に動作
コンピューターAのケーブルが断線しても、B・C・D・Eはそれぞれ独立したケーブルでハブに接続されているため、まったく影響を受けません。「共有しているものが壊れれば全員が止まる」という問題が、専用ケーブルによって解消されました。
障害の特定も大幅に楽になりました。多くのハブにはポートごとに「リンクLED」と呼ばれるランプがついており、接続が切れたポートのランプが消えます。「3番ポートのランプが消えている」とわかれば、問題の場所を「ハブ〜コンピューターC間の1本のケーブル」に絞り込めます。バス型で長いケーブル全体を調べ回っていた作業とはまったく異なります。
機器の追加・取り外しも容易になりました。バス型ではケーブルに直接穴を開ける必要がありましたが、スター型ではポートにケーブルを差し込むか抜くだけです。ハブは用途に応じて8ポート・16ポート・24ポートなどの製品が存在し、接続台数に合わせて選べるようになりました。
次に、ハブの内部で何が起きているかを見ていきます。
ハブの仕組み ― 信号を全ポートに転送する
ハブの正式な呼び名は「リピーティングハブ(Repeating Hub)」で、「リピーターハブ(Repeater Hub)」とも呼ばれます。1つのポートに届いた信号を増幅して、他のすべてのポートへ転送します。
図:ハブは届いた信号を全ポートへ一斉に転送する
コンピューターAがコンピューターCへデータを送った場合も、ハブはAから届いた信号をB・D・Eへも転送します。各コンピューターは受け取ったデータの宛先を確認し、自分宛でなければ無視します。
ここで「物理的な接続の形」と「信号の流れ方」を分けて考えると理解しやすくなります。ケーブルの配置を見ると、各コンピューターのケーブルがそれぞれハブに向かって独立しており、スター型の形をしています。これが「物理的な構成(物理トポロジー)」です。しかし信号の流れを見ると、ハブに届いた信号はすべてのコンピューターへ転送されます。全員に届くという点では、1本のケーブルを走ったバス型と変わりません。これが「論理的な動作(論理トポロジー)」です。
グループLINEでメッセージを送ると、グループに参加している全員のスマートフォンに同時に届くイメージです。ハブも同じで、1台のコンピューターが送った信号を、つながっているすべてのコンピューターへ即座に転送します。受け取った各コンピューターは宛先を確認し、自分宛でなければ無視します。これが「物理的にはスター型、論理的にはバス型」と表現される理由です。
またハブを使ったネットワークでは、送信と受信を同時にできない半二重通信(Half Duplex)のままです。そのため、ハブに接続されたすべてのコンピューターは「衝突ドメイン(信号の衝突が起こりうる範囲)」を共有しており、2台が同時に送信すれば衝突が発生します。CSMA/CDの記事で解説した「送信前に確認し、衝突したら待つ」というルールは、ハブを使ったネットワークでもそのまま機能します。
| 英単語 | 意味 |
|---|---|
| repeating | 繰り返す; 届いた信号を増幅してすべてのポートへ再送する動作 |
| port | 港・出入口; ケーブルを差し込む接続口 |
バス型・スター型(ハブ)の比較
バス型とハブを使ったスター型を並べて整理します。
| 比較項目 | バス型 | スター型(ハブ) |
|---|---|---|
| 断線の影響 | ネットワーク全体が停止 | 断線した1台のみ通信不能 |
| 障害の特定 | 長いケーブル全体を調査 | ハブのランプを見れば瞬時に特定 |
| 機器の追加 | ケーブルへの物理加工が必要 | ポートにケーブルを差し込むだけ |
| データの届き方 | 全員に届く | 全員に届く(ハブが全ポートへ転送) |
| 衝突 | 発生する(CSMA/CDで対処) | 発生する(CSMA/CDで対処) |
| セキュリティ | 盗聴リスクあり | 盗聴リスクあり(改善されず) |
断線耐性・障害特定・機器追加はスター型で大幅に改善されました。一方、データの届き方・衝突・セキュリティの問題はバス型から変わりません。
まとめ
ハブは、バス型ネットワークの「断線によるネットワーク全体の停止」を解決した集線装置です。各コンピューターを専用ケーブルでハブへ接続するスター型トポロジーが、断線の影響を1台に限定し、障害箇所の特定も容易にしました。10BASE-Tとツイストペアケーブルの普及とともに1990年代に急速に広まり、バス型を置き換えました。ただし、信号を全ポートへ転送するという動作はバス型と変わらず、盗聴リスクと衝突の問題は残りました。現在、ハブ(リピーティングハブ)はほぼ使われておらず、これらの問題を解決したスイッチングハブが標準となっています。
用語表
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ハブ(Hub) | hub=車輪の中心部; 自転車の車輪のように中央から各コンピューターへケーブルが放射状に伸びる集線装置 |
| スター型(Star Topology) | star=星 / topology=接続形態; 中央のハブから放射状にケーブルが伸び、星の形に見える接続形式 |
| 10BASE-T | 10Mbps / BASE=ベースバンド / T=Twisted pair; ハブを用いたスター型の標準規格(1990年、IEEE 802.3i) |
| ツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable) | twisted=ねじれた / pair=2本1組; 2本の電線をらせん状に巻き合わせてノイズを打ち消すケーブル |
| リピーティングハブ(Repeating Hub) | repeating=繰り返す; 届いた信号を増幅してすべてのポートへ再送するハブの正式名称。リピーターハブとも呼ばれる |
| 衝突ドメイン(Collision Domain) | collision=衝突 / domain=領域; 信号の衝突が起こりうる範囲。ハブでは全ポートが1つのドメインを共有する |
| リンクLED(Link LED) | link=接続 / LED=発光ダイオード; ポートの接続状態を示すランプ。断線すると消灯する |