コンピューター同士がデータをやり取りするとき、ケーブルの中を流れているのは「電気」です。文字・画像・動画といったあらゆるデータが、電気の「高い・低い」という2つの状態に変換されてケーブルを伝わります。この記事では、データが電気信号としてケーブルを流れる仕組みを、具体的なイメージとともに解説します。
はじめに
入門編「ネットワークとは何か」で、ネットワークの本質は「つながることでデータが行き来できるようになること」だと学びました。しかし「データが行き来する」とはいっても、実際にケーブルの中を何が流れているのかは説明しませんでした。
今回はその「ケーブルの中」に踏み込みます。
コンピューターは電気信号でデータを送る
コンピューター同士がデータをやり取りするとき、ケーブルの中では電気が行き来しています。コンピューターはケーブルに電気を流したり止めたりすることで、情報を相手に伝えます。
ここで使われるのが 電圧の高低 です。電圧とは「電気を押し出す力の大きさ」のことで、電圧が 高い状態 と 低い状態 の2種類を使い分けることで情報を伝えます。
この仕組みはモールス信号に似ています。モールス信号では「トン(短い音)」と「ツー(長い音)」の2種類の組み合わせだけで、すべての文字を表現できます。コンピューターも同様に、「電圧が高い」と「電圧が低い」という2つの状態の組み合わせだけで、あらゆるデータを表現します。
電気信号を「0」と「1」にデジタル化する
電圧の高低という2つの状態を、コンピューターが扱いやすいように 「1」 と 「0」 という記号に対応させます。この変換を デジタル化 といいます。
なぜデジタル化するのか
「電圧が高い」「電圧が低い」という表現のままでは、コンピューターは計算処理ができません。コンピューターの内部は、数字を足したり比べたりする演算回路で構成されているためです。
そこで、電気の物理的な状態を「1」「0」という数字に置き換えます。数字になれば、文字コードの表を使って「01000001はアルファベットのA」と解釈したり、画像の色情報として計算したりといった処理が可能になります。電気という物理現象を、コンピューターが扱える情報へと橋渡しするのがデジタル化の役割です。
なぜ2パターンなのか
電圧は「1V・2V・3V・4V・5V」のように複数の段階を使うことも理論上は可能です。5段階あれば1回の変化で5種類の値を表現でき、より多くの情報を一度に送れます。しかし現実には、ケーブルを流れる電気はノイズ(電磁波などの干渉)や温度変化の影響を受けて、電圧がわずかにずれてしまいます。「3Vのつもりで送ったのに、受け取った側では2.8Vに見えた」という読み間違いが起きやすくなります。
「高いか低いか」の2段階だけに絞ると、多少電圧がずれても「高い(1)」と「低い(0)」を取り違えることはほとんどありません。正確に読み取れることが何より重要です。2パターンに絞ることで1回に表現できる情報の種類は減りますが、高速で大量の変化を繰り返すことで膨大な情報を伝えることができます。
図:多段階電圧と2段階電圧のノイズへの強さの比較
| 電気の状態 | 対応する値 |
|---|---|
| 電圧が高い | 1 |
| 電圧が低い | 0 |
この0と1の1桁を ビット(bit) と呼びます。コンピューターはあらゆる情報をこのビットの組み合わせで表現します。文字・数字・画像・動画・音楽——すべては最終的に0と1の並びに変換されて処理されます。たとえばアルファベットの「A」は 01000001 という8ビットの並びで表現されます。
| 用語/英単語 | 意味 | イメージ・補足 |
|---|---|---|
| ビット / bit | Binary digit(二進数の1桁)の略; データの最小単位 | 電球のオン・オフのように、2つの状態だけを持つ最小の情報単位 |
この変換を担う部品が NIC(ネットワークインターフェースカード) です。パソコンやスマートフォンの内部に搭載されており、送信時は「0と1のデータ → 電気信号」、受信時は「電気信号 → 0と1のデータ」という双方向の変換を行います。
受信側のNICは、届いた電気信号の電圧を読み取って「1」か「0」かを判定します。2パターンしかないおかげで、多少電圧がずれていても正確に判定できます。そうして復元された0と1の並びが、元のデータとして再現されます。
| 用語/英単語 | 意味 | イメージ・補足 |
|---|---|---|
| NIC / Network Interface Card | ネットワークインターフェースカード; コンピューターをネットワークに接続するための回路 | コンピューターとケーブルの「通訳」。デジタルデータと電気信号を相互に変換する |
図:NICがデータと電気信号を相互に変換する
電気は減衰する ― 遠くへ届けるほど弱くなる
電気信号はケーブルを流れるほどに徐々に弱まります。これを 減衰(げんすい) といいます。水道のホースと同じで、ホースが長いほど先端から出てくる水の勢いが弱まるのと同じ現象です。
| 用語/英単語 | 意味 | イメージ・補足 |
|---|---|---|
| 減衰 / Attenuation | 信号の強さが距離とともに弱まること | 遠くにいる人に声が届きにくくなるのと同じ |
入門編「ハブ」で学んだツイストペアケーブルの最大伝送距離は100mです。100mを超えると信号が弱まりすぎて正確に読み取れなくなります。
この問題を解決するのが リピーター です。リピーターは途中で弱まった信号を受け取り、増幅して送り直す機器です。入門編「ハブ」で学んだリピーティングハブは、このリピーターの機能を持つ集線装置でした。
| 用語/英単語 | 意味 | イメージ・補足 |
|---|---|---|
| リピーター / Repeater | repeat=繰り返す; 弱まった信号を受け取り、増幅して送り直す機器 | マラソンの給水所のようなもの。疲れたランナー(弱った信号)に水(電力)を補給して再び走らせる |
光ファイバーでは「光」でデータを送る
ツイストペアケーブルが電気の高低でデータを送るのに対し、光ファイバーケーブルは 光の強弱 でデータを送ります。2つの状態を使い分けて情報を伝えるという考え方は、電気信号とまったく同じです。
意外に思われるかもしれませんが、信号が伝わる速度そのものは電気とほとんど変わりません。銅線を伝わる電気信号は光速の約60〜70%(秒速約18万〜21万km)、光ファイバー内を進む光も光速の約70%(秒速約20万km)で、どちらも同程度です。
光ファイバーが優れているのは 減衰の少なさ と 一度に運べるデータ量 です。電気信号は100mで減衰しますが、光ファイバーなら数km〜数百kmまで届きます。また電磁ノイズの影響を受けないため、安定した通信が可能です。こうした特性から、海底ケーブルや都市間の幹線回線では光ファイバーが使われています。光ファイバーとケーブルの種類については次回の記事で詳しく解説します。
まとめ
コンピューター同士は電気の「高い・低い」という2つの状態でデータをやり取りします。この2状態に「1」と「0」を対応させたものがビットです。NICがデータと電気信号を相互に変換し、受け取った側が電圧を読み取って元のデータに復元します。2パターンに絞る理由はノイズへの強さで、多段階の電圧では読み間違いが起きやすいためです。電気信号はケーブルを流れるほど減衰するため、リピーターで増幅して長距離を届けます。光ファイバーでは電気の代わりに光の強弱を使い、減衰の少なさと大容量通信を実現しています。
用語表
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 電圧(Voltage) | 電気を押し出す力の大きさ。デジタル信号では高電圧を1、低電圧を0として扱う |
| ビット(bit) | Binary digitの略。0か1かの2値で表すデータの最小単位 |
| NIC(Network Interface Card) | コンピューターをネットワークに接続する回路。データと電気信号を相互に変換する |
| デジタル化 | 「電圧が高い・低い」という電気の状態を「1・0」という記号に変換すること |
| 減衰(Attenuation) | 信号がケーブルを流れるほど弱まる現象 |
| リピーター(Repeater) | 弱まった信号を受け取り増幅して送り直す機器 |