この記事でわかること
- 半二重(Half-Duplex) は「送信」か「受信」のどちらか一方しか同時にできない通信方式で、バス型ネットワークやハブがこれにあたります
- 全二重(Full-Duplex) は「送信」と「受信」を同時に行える通信方式で、スイッチングハブとツイストペアケーブルを組み合わせることで実現します
- 全二重では電気信号の衝突が発生しないため、半二重時代に必要だった CSMA/CD という仕組みが不要になりました
はじめに
前回の記事では、ツイストペアケーブルの構造を紹介しました。複数の銅線ペアが撚り合わされていて、送信用と受信用のペアが物理的に分かれているケーブルでしたね。
この連載ではここまでに、昔のネットワークが抱えていた「電気信号の衝突」という問題を、さまざまな技術が段階的に解決してきた流れを追ってきました。バス型ネットワークから始まり、ハブ、スイッチングハブ、そしてツイストペアケーブルへ。技術が進化するたびに、ネットワークはより速く、より安定した通信ができるようになってきました。
今回は、その変化を「半二重」と「全二重」という2つの通信方式の観点から改めて整理します。この2つのキーワードを押さえると、「なぜスイッチングハブとツイストペアケーブルの組み合わせが優れているのか」がより鮮明に見えてきます。
半二重通信——「今は話せない、待って」が発生する世界
Half-Duplex という言葉の意味
「半二重」は英語で Half-Duplex(ハーフ・デュプレックス) と書きます。それぞれの単語の意味を確認してみましょう。
- Half(ハーフ):「半分」という意味です。日常でも「ハーフサイズ」「ハーフタイム」などで使う言葉ですね。
- Duplex(デュプレックス):「二方向・双方向」という意味です。語頭の “du-” はラテン語で「2」を意味します。“Duplex” は「二つの方向」ということになります。
2つ合わせると「半分だけ双方向」。送信と受信を交互にしか行えず、同時にはできない通信方式のことです。
トランシーバーで考えてみましょう
半二重をもっともイメージしやすいのは、トランシーバー(インカム・無線機)です。
トランシーバーで話すとき、送信ボタンを押して話しているあいだ、相手の声は聞こえません。相手の声を聞くには、ボタンを離して「受信状態」に切り替えなければなりません。自分が話しているとき相手は聴くだけ。相手が話しているとき自分は聴くだけ。どちらか一方しか同時にできない——これが半二重です。
バス型ネットワークは半二重
以前の記事で紹介したバス型ネットワークを思い出してみてください。1本の長いケーブルにすべてのパソコンがぶら下がる形のネットワークでした。
このネットワークでは、ケーブルという「道」が1本しかありません。あるパソコンが信号を送ると、その信号はケーブルをつたって全員に届きます。このとき別のパソコンも同時に信号を送ると、2つの信号がぶつかって壊れてしまいます——これが「電気信号の衝突」です。
衝突が起きると信号が壊れ、誰にも正しく届きません。そのため、あるパソコンが送信しているあいだ、ほかのパソコンは「待機」しなければなりません。送信が終わったら次の番——この順番待ちの繰り返しが、半二重の動作そのものです。
全員が1本の道を使い回すかぎり、この制約からは抜け出せません。
ハブも半二重
以前の記事で紹介したハブ(リピーターハブ)も、半二重の機器です。
ハブは、1つのポートで受け取った信号を、他のすべてのポートに流します。スイッチングハブとの決定的な違いがここにあります。スイッチングハブは宛先のポートだけに転送しますが、ハブはつながっている全員に垂れ流します。
その結果、ハブにつながったパソコンたちは、全員で1つの「共有の道」を使っている状態になります。1台が送信すれば残り全員がそれを受け取ります。別の1台が同時に送信しようとすれば衝突が起きます。
バス型ネットワークとは形が違っても、「全員で1本の道を共有する」という本質は同じです。ハブを使ったネットワークも、全体として半二重の動作になります。
「ハブ」という言葉の混乱——バカハブって何?
スイッチングハブが登場してから、「ハブ」という言葉が少々ややこしくなりました。
「ハブを使っている」と言ったとき、それが従来のハブを指すのか、スイッチングハブを指すのかが、文脈によってわかりにくくなったのです。現場でもよく混乱が起きていました。
そこで、区別しやすくするために、従来のハブのことを 「バカハブ」 と呼ぶ場合があります。スイッチングハブのように宛先を判断して転送するような賢い動きをしないから、「バカ」と名付けられてしまったわけです。なんともかわいそうな呼び名ではありますが、現場では普通に使われる言葉なので、覚えておくと役に立つかもしれません。
ちなみに、「リピーターハブ」という呼び方も同じ意味で使われます。こちらは動作を説明した名前なので、少し親切な呼び方と言えるかもしれません。
全二重通信——送受信が同時に流れる世界
Full-Duplex という言葉の意味
「全二重」は英語で Full-Duplex(フル・デュプレックス) と書きます。
- Full(フル):「完全な・すべての」という意味です。「フルサイズ」「フルパワー」などの言葉でなじみがあると思います。
- Duplex(デュプレックス):半二重のときと同じ「二方向・双方向」です。
2つ合わせると「完全に双方向」。送信と受信を同時に行える通信方式のことです。
スマートフォンの通話で考えてみましょう
全二重は、スマートフォンの電話通話をイメージするとわかりやすいです。
自分が話しながら、相手の声も同時に聞こえますよね。相手が話し終わるのを待つ必要はありません。双方向の音声が同時に流れています。これが全二重です。
半二重のトランシーバーとは根本的に違います。トランシーバーは「どちらかが話す」、電話は「両方が同時に話せる」。通信の「道」の作りが異なるから、できることも変わってくるのです。
スイッチングハブが信号を「振り分ける」
全二重を実現するには、まずスイッチングハブが必要です。
スイッチングハブは、各パソコンのMACアドレス(機器を識別する固有の番号)を学習し、受け取った信号を宛先のポートだけに転送します。パソコンAからパソコンBへの通信が行われていても、パソコンCからパソコンDへの通信が同時に行われても、互いに干渉しません。
ハブのように全員に垂れ流す構造ではないので、「1本の道を共有する」という制約がありません。複数の通信が同時に流れても、衝突が起きにくくなります。
ただし、スイッチングハブだけでは全二重は完成しません。もう1つ、欠かせない条件があります。
ツイストペアケーブルが「送る道」と「受ける道」を分ける
ここで前回のツイストペアケーブルの構造が重要になります。
ツイストペアケーブルの内部には、送信専用の線ペアと受信専用の線ペアが別々に存在しています。「送る道」と「受け取る道」が、物理的に最初から分かれているわけです。
この構造のおかげで、送信中でも、受信の信号が「受信専用の道」を通ってくれば互いにぶつかりません。「今は送信しているから受信を待ってくれ」という制約が、そもそも発生しないのです。
一方、送受信が同じ1本の経路を共有するケーブルでは話が変わります。スイッチングハブに接続していても、ケーブルが送受信を分離していなければ、信号はその1本の経路の上でぶつかることがあります。この場合、全二重は実現できません。
全二重通信が成り立つには、次の2つがセットで必要です。
| 必要なもの | 役割 |
|---|---|
| スイッチングハブ | 宛先を絞った転送で、複数の通信が干渉しないようにする |
| ツイストペアケーブル | 送信と受信の経路を物理的に分離して、同時通信を可能にする |
どちらか一方では不完全です。両方揃って初めて、電気信号の衝突が起きない環境が整います。
CSMA/CDはなぜ不要になったのか
CSMA/CDのおさらい
以前の記事でCSMA/CD(シーエスエムエー・シーディー)を紹介しました。正式名称は Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection です。英単語をひとつずつ見ていきましょう。
- Carrier(キャリア):「搬送波」という意味です。電気信号を乗せて運ぶための電気の波のことです。
- Sense(センス):「感知する・検知する」という意味です。
- Multiple(マルチプル):「複数の」という意味です。
- Access(アクセス):「接続・アクセスする」という意味です。
- Collision(コリジョン):「衝突」という意味です。交通事故を表す英単語と同じです。
- Detection(ディテクション):「検出・検知」という意味です。
全部つなぐと「搬送波を感知しながら複数のアクセスを行い、衝突を検出する」。ひとことで言えば、「信号が衝突したことを検知して、送信をやり直す」仕組みです。
半二重の環境でCSMA/CDが必要だった理由
バス型ネットワークやハブを使った半二重通信では、複数のパソコンが同じ「道」を共有します。どんなに注意していても、送信のタイミングが重なって衝突が起きることがあります。
衝突が起きてそのままにすれば、壊れた信号が届くだけでデータは正しく伝わりません。そこで「衝突を検知したら、ランダムな時間待ってから再送する」というルールを全員で守ることにしました——それがCSMA/CDです。
このルールがあることで、衝突が起きても通信を立て直せます。半二重の環境では必要不可欠な仕組みでした。
全二重になるとCSMA/CDは出番がありません
スイッチングハブとツイストペアケーブルの組み合わせで全二重通信が実現すると、状況はがらりと変わります。
送信専用の経路と受信専用の経路が物理的に分かれているため、送信中に受信の信号が飛び込んで衝突することがありません。スイッチングハブが特定の宛先だけに転送するため、関係のないパソコンへの信号が混じることもありません。
電気信号が衝突する状況そのものが生まれなくなります。衝突しないなら、衝突を検知して再送する仕組みも必要ありません。こうしてCSMA/CDは、スイッチングハブとツイストペアケーブルが当たり前になった現代のネットワーク環境では使われなくなりました。
ある問題が技術によって解決されると、その問題に対処するための技術も役割を終えます。CSMA/CDが消えたことは、ネットワークが「衝突の心配をしなくてよい環境」へと進化した証でもあります。
まとめ
今回は半二重と全二重という2つの通信方式を整理しました。
| 方式 | 送受信の同時性 | 使われる機器の例 | 信号の衝突 | CSMA/CD |
|---|---|---|---|---|
| 半二重(Half-Duplex) | 送信か受信のどちらか一方 | バス型ネットワーク、ハブ | 起きる | 必要 |
| 全二重(Full-Duplex) | 送信と受信を同時に | スイッチングハブ+ツイストペアケーブル | 起きない | 不要 |
バス型ネットワークやハブは、全員で1本の「道」を共有する構造でした。そのため半二重にならざるを得ず、衝突対策としてCSMA/CDが必要でした。
スイッチングハブが宛先を絞って転送し、ツイストペアケーブルが送受信の経路を物理的に分離します。この2つが揃うことで全二重が実現し、電気信号の衝突そのものがなくなりました。CSMA/CDはその役目を終えました。
次回は、今回の内容と密接に関わるキーワードを紹介する予定です。