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ランダムMACアドレスとは?スマホの追跡を防ぐプライバシー保護機能を解説

ランダムMACアドレスとは、Wi-Fi接続時に本来のMACアドレスを隠し、ランダムに生成した値を使う機能です。スマートフォンは電源が入っている限り、周囲のWi-Fiを探すための信号を発信し続けており、そこに含まれるMACアドレスから行動を追跡される可能性があります。この機能は現在のiPhoneやAndroidで標準的に有効になっており、複数の施設をまたいだ追跡を困難にします。


はじめに

スマートフォンを持って街を歩くだけで、自分の行動が記録されているとしたら——。これは大げさな話ではなく、Wi-Fiの仕組みを利用すれば技術的に可能なことです。

その鍵となるのが MACアドレス です。ネットワーク機器に割り当てられた識別番号で、原則として変わることがありません。この「変わらない」という性質が、プライバシーの観点では問題になります。

この記事では、MACアドレスによる追跡の仕組みと、それを防ぐランダムMACアドレスという機能について解説します。


なぜMACアドレスで追跡できるのか

MACアドレスによる追跡が可能な理由は、スマートフォンの動作にあります。

Wi-Fiに接続していなくても信号を出している

スマートフォンは、Wi-Fiがオンになっている限り「近くに使えるWi-Fiはないか」を常に探しています。このとき プローブ要求(Probe Request) という信号を周囲へ発信しており、そこに自分のMACアドレスが含まれています。

用語/英単語 意味 イメージ・補足
プローブ要求 / Probe Request probe=探る / request=要求; 周囲のWi-Fiアクセスポイントを探すために発信する信号 部屋に入るなり「誰かいますか?」と声をかけるようなもの。自分の名前を名乗りながら探している

重要なのは、 接続していなくても発信されている という点です。パスワードを知らないWi-Fi、一度も使ったことのないWi-Fiであっても、その電波が届く範囲にいれば信号は届きます。

つまり、店の前を通り過ぎただけでMACアドレスが記録される可能性があるということです。

記録を集める仕組みが存在する

この性質を利用したのが、商業施設向けの Wi-Fi解析サービス です。店舗や施設にセンサーを設置し、通過した端末のMACアドレスと時刻を記録します。

こうしたサービスは、以下のような分析に使われています。

  • 店舗の前を何人が通過し、そのうち何人が入店したか
  • 来店客がどの売り場に何分滞在したか
  • 何日おきに再来店しているか

個人を特定する情報ではないため、マーケティング目的での利用は一定の条件下で認められています。しかし、MACアドレスが固定であることを前提とした仕組みであることに変わりはありません。


複数の拠点をまたいだ追跡

1つの店舗だけであれば、記録できる情報は限られています。問題になるのは、複数の拠点のデータを1つの主体が保有する場合です。

次のような事業者であれば、拠点をまたいだ行動履歴を把握できます。

事業者 追跡できる範囲
Wi-Fi解析サービス事業者 契約している全施設。ショッピングモールや駅ビルなど
チェーン店を運営する企業 自社の全店舗
公衆Wi-Fiを提供する通信事業者 全国に設置したアクセスポイントの範囲

MACアドレスが固定であれば、「同じ端末がA駅に8時、B店に12時、C店に19時にいた」という記録を突き合わせることが可能になります。名前や住所は分からなくても、行動パターンから個人が推測できる場合もあります。

MACアドレスが固定だと複数拠点の記録が1人の行動履歴として結びつく図

図:MACアドレスが固定だと追跡できてしまう


ランダムMACアドレスの仕組み

こうした追跡を防ぐために導入されたのが ランダムMACアドレス です。実際のMACアドレスの代わりに、ランダムに生成した値を使って通信します。

用語/英単語 意味 イメージ・補足
ランダムMACアドレス / MAC Address Randomization randomization=無作為化; 本来のMACアドレスを隠し、ランダムな値を使う機能 場所ごとに違う名前を名乗るようなもの。記録を突き合わせても同一人物だと分からない

ポイントは 接続先のWi-Fiネットワークごとに異なる値を使う ことです。A店のWi-Fiでは 3E:7A:91:0C:44:D2、B店のWi-Fiでは B2:15:6F:8E:03:A7 というように、別々のMACアドレスが割り当てられます。

これにより、複数の拠点の記録を突き合わせても、同じ端末だと判断できなくなります。

拠点ごとに異なるMACアドレスが使われ、記録を突き合わせても同一端末と分からない図

図:ランダム化すると別の端末に見える

なぜ毎回変えないのか

「毎回ランダムにすれば、もっと安全なのでは」と思うかもしれません。しかし、接続のたびにMACアドレスが変わると不都合が生じます。

たとえば、家庭のルーターでMACアドレスごとに固定のIPアドレスを割り当てている場合、毎回変わると設定が機能しません。また、接続履歴が保存されず毎回パスワード入力を求められるといった問題も起こり得ます。

そのため、同じネットワークに再接続する場合は原則として同じランダムMACアドレスが使われます。安定した接続と、拠点をまたいだ追跡の防止を両立させる設計です。


iOSとAndroidの実装

主要なOSでは、いずれもランダムMACアドレスが標準で有効になっています。

OS 対応バージョン 動作
iOS / iPadOS iOS 14以降 ネットワークごとに固定のランダム値。一定期間接続がないとローテーション
Android Android 10以降 ネットワークごとに固定のランダム値。設定で毎回変更も選択可能
Windows Windows 10以降 標準では無効。設定から有効化できる

iOSでは、14日間そのネットワークに接続しなかった場合などにMACアドレスが再生成されます。長期間訪れていない場所では、次回は別の端末として扱われることになります。

設定を確認する方法

自分の端末で有効になっているか確認できます。

OS 確認場所
iPhone 設定 → Wi-Fi → ネットワーク名の「i」→ プライベートWi-Fiアドレス
Android 設定 → ネットワークとインターネット → Wi-Fi → ネットワーク名 → プライバシー
Windows 設定 → ネットワークとインターネット → Wi-Fi → ランダムなハードウェアアドレス

企業ネットワークで起きる問題

便利な機能ですが、企業や学校のネットワークでは問題になる場合があります。

MACアドレス認証が機能しない

「登録されたMACアドレスの端末だけ接続を許可する」という仕組みを使っている環境では、ランダム化された端末は未登録の端末として拒否されます。

端末の識別ができない

ネットワーク管理者が「どの端末が通信しているか」を把握する際、MACアドレスを手がかりにすることがあります。ランダム化されているとこの追跡ができません。

このため、企業のWi-Fiに接続する際は、そのネットワークに限ってランダム化を無効にするよう案内される場合があります。設定画面から、ネットワークごとに個別に切り替えることが可能です。


まとめ

スマートフォンはWi-Fiがオンである限りプローブ要求という信号を発信しており、そこに含まれるMACアドレスから行動を記録される可能性があります。Wi-Fi解析サービスやチェーン店のように複数拠点のデータを保有する事業者であれば、拠点をまたいだ行動履歴を把握することも技術的には可能です。ランダムMACアドレスは、接続先のネットワークごとに異なる値を使うことでこうした追跡を困難にする機能で、iOS 14以降・Android 10以降で標準的に有効になっています。ただし企業ネットワークではMACアドレス認証が機能しなくなる場合があり、必要に応じてネットワークごとに無効化できます。

用語表

用語 意味
MACアドレス ネットワーク機器に割り当てられた48ビットの識別番号
プローブ要求(Probe Request) 周囲のWi-Fiアクセスポイントを探すために発信する信号。MACアドレスを含む
ランダムMACアドレス 本来のMACアドレスを隠し、ネットワークごとにランダムな値を使う機能
Wi-Fi解析サービス 施設に設置したセンサーでMACアドレスを収集し、人流を分析するサービス
MACアドレス認証 登録されたMACアドレスの端末だけ接続を許可する仕組み